家族葬には、コツがある

2001年初頭、いまだ肌寒さを感じる頃のことである。 「Aさんの部屋の洗濯物が、一週間以上そのままになっているのですが……」電話の主は、生前契約利用者Aさんが住んでいるアパートの家主さんである。
「ちょっと様子を見ていただけませんでしょうか」とKアドバイザー。 「様子が変で、悪臭がします」大家さん。
「こちらで警察に連絡を取りますので、そのままにしておいてください」Kアドバイザー(アドバイザーは生前契約の専門職)。 Aさんは、東京都心から100キロほど離れた隣県の街に住む、82歳には見えぬハッラッとした男性。
地元の警察がすぐ駆けつけてくれた。 死後一週間くらいたって、遺体もかなり傷んでいる。
通常、遺体は警察へ搬送し、監察医の死体検案を受け、事件性(殺人など)がなければ遺体は「釈放」される。 ベテラン警官の経験と勘で、事件性がないと感じたのだろう、医師を現場に同伴して、検案は早く終了した。
死因は脳梗塞、即死に近い状況で「いい往生だったのでは」とは医師の話。 薄ら寒い弥生3月、こたつでうとうとしていたのだろうか、座ったままこたつの角にぶつけたのか、額の傷からわずかに血がにじんでいた。
良い死に方、大往生とは何か。 私は、「長患いせず、大きな痛み苦しみを伴わずに、生の終わりを迎えること」と定義している。

医師、家族に見守られて生の終駕を迎えることはあっても、結局死ぬのはただひとりである。 誰も一緒に死んであげることはできない。
死出の旅というのは「ひとりぼっち」なのだ。 死後何日か経過して発見された、というと「とてもかわいそうな死に方をした」という哀れみの感情をもって報道される。
問題は死の瞬間にもだえ苦しみ、助けを呼んでもその声が届かず、死出の旅へ向かったのかどうか。 そうだとするとお気の毒だし、助けを呼ぶ声が届くような仕組みなり、ライフスタイルの選択が必要だったかもしれない。
しかしそうではなく、個人の尊厳、個人の自由な生き方を大切にしようというのなら、これは大往だ。 葬送支援110番から見えた死の風景私たちは2000年12月25日から2001年1月24日という、年末年始をはさんだ1か月間、24時間体制で、葬送に関するあらゆる相談を受ける電話相談を実施した。
無謀ではないかという声もあるなか、やる以上は、人がいちばん困っている時期に実行しようとの意気込みであった。 その結果、件数は多くなかったが、さまざまな相談をうけ、相談者の問題解決に寄与した緊急相談も数件あった。
相談概要は次のとおりである。 実施したのが生前契約に関わるNPOということで、トップはやはり生前契約についての相談で20%を占めた。
第2位(17.5%)は、自分らしい葬儀、特に「何もしない葬儀」を実現するにはどうすればよいか、そんな葬儀を請けてくれる葬儀社があるのか、あれば紹介してほしい、といった内容である。 現在、人が葬儀を考えるときのキーワードは「自分らしい葬儀をしたい」である。
そんなところから考え直してみなければならない。 ハブル景気に歩調を合わせるかのように、葬儀業界は「絢欄豪華高価格かつ画一的(没個性)」といった路線を走り続けたが、そのアンチテーゼとして表れたのが「地味・低価格・個性的、つまり自分らしい」というニーズである。

第1位の「生前契約について知りたい」にカウントされている相談の背景にも、自分の意思と責任で自分らしい終末を迎えたい、そのための手段として生前契約に関心を持ったということがあるだろう。 第3位(15.1%)は墓に関する相談である。
少子化時代を反映し、墓地の管理や継承、それに関連して永代管理方式の合葬墓などに対する関心が高いことをうかがわせていた。 寺院境内墓地をめぐる問題もかなりある。
「その寺で葬式をして戒名をつけてもらわなければ、納骨させないと寺から告げられた」とか、「先祖の墓の建立に際し、応分の資金負担をしたので、その墓に入れると思っていたら、兄嫁から「この墓は私たちが墓守をするのだから、弟であるあなたたちを入れるわけにはいかないと言われた」など。 将来的に檀家制度をどのように考えていくかということとも関連し、寺院境内墓地のあり方が問われていることを感じた。
第4位(12.6%)は、墓地と関連するが、寺に対する不満・苦情、特に布施や式米料など金銭面での問題の相談が多い。 本来、「財」とは縁遠いはずの寺・宗教が、金まみれになって大衆から糾弾されている。
釈尊はじめ各宗派の開祖や、高僧といわれ仏教を今日にまで伝えた宗教家たちが、この「風潮」を何と解するだろうか。 現在、市民と寺との間で起こっている事例は、あまりにも宗教や心の問題とは遊離しすぎているのではないか。
「「戒名一文字5万円」と寺から言われている、どうしたらよいか」と、訴えるように語る相談者を通して見える「寺」に対し、言いようのない憤りを覚えた。 お葬式に坊さんは不要、そんな僧侶が守っている寺も不要で、いずれ消え行く運命にありますよ、と私が言うと、「いや、その寺、すごく繁盛しているんです」と切り返され、私は一瞬声を失った。

私は20歳で出家得度したものの、何度かのチャンスをのがし、職業としての僧侶となることを放棄したが、愚息が住職を務める寺の経営責任を負う立場にある。 ややイレギュラーながらも寺側の人間として、多少弁解っぽいことを言うと、利用者の側も、宗教や心の問題とはまったく無関係に、世間体をつくろい見栄を張るために「院号居士号」を求め、それでも高いお金は払いたくない、といった人も多いのではないか。
第5位の「遺言や相続について」(13%)は、聞いていていやになるようなケースが多い。 要するに、相談を受ける側は片聞き(一方の主張のみしか聞けない)だから、「法定相続のルールや、被相続人(亡くなった人)の気持ち(意思)がどこにあったのかを切り口として、関係者(兄弟姉妹が多い)とよく話し合ったらどうか」とか、「あまりこじれない間に、家裁への調停など公の機関で、レフェリー(調停員や裁判官)の前で、お互いの主張を出し合ってアドバイスを受けるのもひとつの方法だ」といった解答をするしかない。
第6位の「葬儀の費用について」(9.6%)で予想外だったのは、葬儀社とのトラブルや糾弾といった相談はほとんどなく、「どうしたら安くて満足のいく葬儀ができるか、そんな葬儀を請けてくれる葬儀社はないか」といった建設的な相談内容が多かったことである。 これは第2位の「自分らしい葬儀をしたい」と連動している。
第7位は「散骨について」(3.9%)。 実数で25件あり、墓地関連とは別に分類してみた。
散骨への関心は高いが、「散骨」そのものよりむしろ、墓を持つことの煩わしさ承継難などが背景にあることが感じられる。 その他、「年賀状を出した後に相手の家族が亡くなったんだけど、相手に失礼にならないか」「喪中だけど、正月飾りや初詣はどうすればよいか」「葬儀や法事の際の服装はどうすればよいか」など、葬送慣習へのこだわりを捨て切れない悩みを持つ人々もかなり存在することもわかった。
相談件数の実数は、1か月で646件となった。

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